SPECIAL LECTURE 特別講義・調達の仕事

「土を調達する」ってどういうこと?

ヤマセでは自社にタイルの原材料(粘土や土)を保管しています。作りたいタイルに合わせて原材料をピックアップし、工場で調合・精製し出荷しています。常に保管しているのはおよそ100種類。この補填と、新たな原材料が必要となった場合に、調達という業務が発生します。

でも、粘土や石という身近なものを「調達する」って、一体どういうこと? そう思いますよね。そんなみなさんに向けて、ヤマセの調達スペシャリストT.Sが解説します。

取締役技術部長|T.S

2006年入社|理工学部卒

 

子どもの頃から身近にあったタイル。いつかこの形や色を自分で作ってみたいと幼心に夢見ていた。大学で無機材料を専門に学んだ後、さまざまな会社・業界を経てヤマセに就職。入社9年目から調達に関わり、現在は営業・技術・調達・開発とヤマセの業務全般を引っ張る存在。

「彼に鉱山や原材料について聞いてわからないことは無い」と社員から密かに「山師」とも呼ばれているそう。

01|何がどれぐらい必要?

使いたい原材料を絞り込む。

原材料である粘土や石は、国内外の鉱山から仕入れています。鉱山ごとに埋まっている土や石の質が異なり、何をどう配合するかでタイルの仕上がりも変わります。

 

まずお客様から「こんなタイルが欲しい」「改良したい」と発注をいただいたら、どんな原材料がどれぐらい必要かを考えます。ここで言う「原材料」とは石や粘土のこと。たとえば粒度の細かい粘土を使いたい場合。該当する粘土が瀬戸市にも多治見市にもあったとしましょう。それぞれの性質を比較し、最適な方を見極め、原材料を確定します。多治見市小名田町にある粘土なら「小名田3級」「小名田2級」など、地名や等級で分類されています。

02|鉱山を選ぶ。

現地調査をする。 

仕入れたい原材料がある鉱山を選びます。美濃や瀬戸などの近場から北は北海道、南は沖縄まで。海外なら韓国、中国、インドネシア、ウクライナ、トルコ、イギリスなど。日本中、世界中に目を向ける仕事です。鉱山を所有する業者にアポを取り、現地に足を運びます。要求した原材料が鉱山にあるか、きちんと生成されているかを確認するのです。ただ、海外での現地調査は年に一度ぐらいで、現地の業者に代行してもらうことがほとんどです。社内の人手が足りないのでやむを得ずですが、ヤマセで働く仲間が増えればもっとこの機会を増やしたいですね。

 

 ◯鉱山で遭遇するあらゆる予想外を味方につける

鉱山では掘ってみて初めてわかることだらけ。商社を介して原材料を仕入れますが、品質は自分達の目で確認します。鉱山で直接確認するメーカーは稀で、ヤマセの特徴でもあります。採掘するエリアは予め想定している中で、現地で「もう少し下の地層の部分まで今回の原材料として使えそうだから、そこを10%ぐらい含めて商品として出してもらえますか」と、自分の目利きで「より良い品質やコストパフォーマンス」に持っていくことができるのです。鉱山で判断できるようになるには、やはりそれなりの知識と経験、そして好奇心が必要です。

03|鉱山業者と交渉。

仕入れ開始。 

一度にどれぐらい運べるのか、何で運ぶのか、 品質を安定させるためにどんな対策をしてもらえるのか。納入形態・品質管理・原材料の単価を交渉します。ここで話がまとまってやっと仕入れが確定。陸路か航路で届けてもらいますが、運河での事故やコンテナの紛失など、予測不可能な輸送トラブルが起きる可能性もあるため、到着するまで気は抜けません。無事当社に届いたら原材料の状態を再検査。ここまでが調達の仕事です。

 

◯なぜ再検査が必要?

現地で合格と判断した原材料の品質が、工場に届く時まで保てているとは限りません。掘削するまでの間に鉱山に大量の雨が降り、溶けてしまう。船に積まれ海を渡る間に変色してしまう。変質したものを同じように精製すると、完成品であるタイルの色や固さ、寸法に影響が出てしまいます。できる限り対策は講じますが、やはり天然の原材料ですから完全にコントロールすることはできません。次回以降の仕入れ方法を鉱山業者と相談したり、変質してしまったものを製造工程で改善できないかを考えたりして向き合い続けるのです。

自然と向き合うヤマセの技術力。

 

天然の原材料は日々変化する。

 

でも、だからこそ好奇心が尽きないのかもしれません。粘土や石は鉱山にある時から、土砂崩れ、雨に降られ風に吹かれ、季節を経て、湿度、粘度、色、あらゆる要素が変化していきます。同じ方法で補正しようとしても効かない場合もある。予想もしていなかった反応が起きる。緻密に精製・制御されたファインセラミックスとの大きな違いがここにあります。どれだけ知識や経験を持っていても掴みきれないところに自然の威力を感じられるのかもしれません。

 

 

埋蔵量は「推測」でしかわからない。

 

欲しい原材料が埋まっている地層があるとします。そこを掘っていくと、急に別の地層に切り替わってしまうことがあります。これは誰にも予測できません。想定より採掘できなかったというアクシデントはもはや日常。ですが作りたいタイルの機能や色は決まっています。原材料が揃わなくても製造工程を工夫して実現させる。ここが技術部の腕の見せ所です。他の原材料を混ぜる、薄める。加水量、粉砕する機械の回転数、乾燥させる温度や時間を変える。あらゆる改良方針から最適な方法を導き出します。本来必要だった量の半分しか採掘できなくても、目指していた機能や色を実現することができるのです。

 

仕入れ先・鉱山はどんな世界?

 

鉱山に「選ばれる」取引を。

 

新しい原材料、新しい鉱山を開拓するときは、鉱山を管理する業者との交渉になります。しかし「この原材料が必要だから売ってほしい」と伝えても、すぐに取引が成立するわけではありません。鉱山は基本的に一見さんお断りの世界。これは世界共通です。

理由は、結局は限りある資源を扱っているから。鉱山側にも「価値ある使い方をしてくれる人にコツコツ計画通りに販売していきたい」という考えがあります。原材料は、誰でも手に入れられるものではないのです。でもそこを突破していく。それが調達のミッションです。

 

 

だからこそ、一度できた絆は強い

 

どう突破するのかは鉱山により様々。ヤマセと取引することで相手にとっても課題解決になる方法を提示する。自分たちの要求も素直に話す。他の取引で採掘量の自由が効かないなど、鉱山側もあらゆる課題を抱えています。代表者だけではなく、そこで実際に採掘しているオペレーターとの交渉を求められることもある、特殊な世界です。何度も通い関係を築き、情報を集めるのです。その結果自分しか手に入れることのできない原材料を手に入れた時の達成感は何にも変え難いものですね。

 

 

持続可能性を共に考える。

 

今すぐ資源が無くなるということはありませんが、後先考えずに採掘し続ければ枯渇します。できるものは再利用しながら、計画的に採掘すること。そのルールを守ることが鉱山の、そして業界の延命に繋がるのです。ですから、新たな鉱山との取引が決まったら、最後まで見届ける気持ちでいます。採掘範囲、量、価格。どんな掘削計画であれば延命できるか、今できることは何か。密に連絡を取り合いながら鉱山の未来を共に考えます。

私の好奇心が止まない。

諦めることができないのが調達という仕事です。

鉱山とは、私の知識欲をくすぐり続ける場所です。毎日国内外の鉱山に眠るの原材料のことを考えているうちに、あの山にアレがあるならコレもある、と勘が働くようになる。現地に行けばもったいない掘られ方をしている地層や、見捨てられている原材料に気付く。ここからいくつもの「新商品の開発」「現在料の有効活用」に漕ぎ着けてきました。自分が知識や経験を蓄えるほどに、隙間に隠れたチャンスにアンテナが反応し出すのです。そして取り組んだ結果、鉱山の延命、タイルを通じた課題解決、そしてヤマセの企業価値の向上へとつながっていく。何にも代えられない達成感がそこにあります。

 

戦争などの世界情勢や鉱山運営の高齢化・人口減少と、原材料を入手する環境はいつも不安定です。その一方で、建材1枚に求められる品質は高まるばかり。地球環境に配慮した焼成温度の低温化。タイル原料の再利用。他にもウイルス除去や機密性の向上など。調達環境の不安定さが増しても、求められる品質への期待は止まらない。もはや諦めることができないこの状況に、私はやっぱり胸が高鳴るのです。ここをどう乗り越えるかで当社にとってチャンスになるからです。新しい技術と柔軟な対応力を育み、先手先手で取り組むことができれば、ヤマセという会社は今より2歩も3歩も抜きんでた存在になれるはずです。

現地調査先・鉱山の景色